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僧侶の視点から世の中の色々なものをレビューする【僧侶的よろずレビュー】。
前回は三ヶ月ほど前、映画「Fight Club(ファイトクラブ)」をレビューしました。
今回は、最近文庫版が出版された、お笑いコンビ・オードリーの若林正恭さん著「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」をレビューします。
ナイーブさやネガティブさをもつ若林さんならではの、細やかな情景や心理の描写が魅力の一冊です。
ぜひ最後までお付き合いください!
Contents
作品概要
この本は、元々2017年に発行された同名書籍の文庫版です。
第3回斎藤茂太賞受賞を受賞した本書は、多忙を極める著者の紀行文で、キューバ、モンゴル、アイスランドへの一人旅の様子が綴られます。
日本の社会や世間に対して抱いた違和感の正体を探るべく、日本と異なる個性をもった三ヶ国への旅の中での若林さんの「気づき」は、ユーモアに富んでいながら非常に生々しい、読者に訴えかけるものがあります。
多忙な中で得た5日間の夏休みを利用したキューバ旅行紀を主軸とし、様々な「初めて」を経験する若林さん。
そして、旅の終わりにキューバにやってきた本当の目的が語られます。
ネガティブでデリケートでありながら、アグレッシブさを兼ね備える若林さんだからこそ紡ぐことの出来る言葉は必読です。
日本社会の生き辛さ
さて、ここからはレビューをしていきたいのですが、この作品の内容は私の言葉で解説してしまうとあまりにもったいないと思うので、なるべく具体的な内容には触れずにいきたいと思います。
この紀行文の根底には、若林さんが幼い頃から抱いていた日本社会への違和感があります。
果たしてそれは自分という人間に欠陥があるが故のものなのか、という疑問を解決すべく、大きく異なる性質を持つ三ヶ国を訪れるわけです。
ここからはネタバレにならない範囲で、私が思わず付箋を貼ってしまった若林さんの気づきをご紹介したいと思います。
広告と物足りなさ
若林さんは、東京やニューヨークでは無意識のうちに非常に多くの広告を目にしていた、ということに気づきます。
そしてそれらの広告は、商品や生活の魅力を伝えているようで、実は自分の足りなさを思い知らされていたのではないか、と感じるのです。
確かに、私が現在使っているiPhone6sは買った時には最新だったのに、新たなiPhoneが出るごとに鮮やかさを失い、今では最新のiPhoneは12、6sは完全にセピア色の存在になってしまいました。
そんな風に、街に出るだけで否が応でも目に入ってくる広告や、SNSで目の当たりにする他人の暮らしぶりというのは、私たちにその「魅力」を伝えつつも同時に「そんな暮らしで満足なの?」というメッセージを送っていたのです。
それは若林さんが訪れた国のとある大きな特徴ならではの気づきといえるでしょう。
私が以前から感じていた、現代日本の隣の芝の青さが見えすぎる問題を、とても具体的に言葉にされて、非常に胸を打たれました。
自分は世の中に必要とされているか
また、若林さんは旅先で、様々な職業がそれぞれの役割を果たして社会が成り立っている様子を目の当たりにし、ご自身が芸人として売れる前、アルバイトをしていた頃の心境に思いを馳せます。
当時、同級生の誕生会で味わった惨めさや、いまだにアルバイトをしていることに対する大人としての後ろめたさがあったのはなぜか。
アルバイトという形で、社会の一部を担っていると胸を張ることができなかったのはなぜかと、自分を振り返るのです。
そして、当時そんな心境になっていたのは、自分が社会に必要とされていないという感覚が原因だったのでは、と考え至るのです。
そこから、実はお金やフォロワー数の競い合いも、いかに自分が社会から必要とされているかという数値の競い合いに他ならないのではないかと気づくのです。
この視点は僧侶が現代社会を見つめる際に重要なもので、生産性・映え・スペックといった価値観の根幹を捉えるものです。
一生懸命に得ようとしているそれは、果たして自分の心のどこから生まれたものなのか、そんな仏教的ともいえる視点から若林さんは社会を見ていました。
自分の欠落が人を救う
この文庫版は、若林さんがコロナ後の社会について加筆している他、解説をCreepy NutsのDJ松永さんが寄稿しています。
DJ松永さんは昨年DJの世界大会で優勝し、現在はテレビやラジオでも活躍していますが、実は「オードリーのオールナイトニッポン」のヘビーリスナー。
しかもただ番組が好きなだけでなく、この番組での若林さんに、心を救われているのです。
それは、若林さんが自らの自意識過剰な部分やナイーブさから感じる世間への違和感をラジオで包み隠さず笑い話として口に出したことによるものでした。
DJ松永さんは、自分だけが負っていると思っていた傷をエンターテインメントの世界にいる人も負っていて、しかもそれを笑いに昇華させているということに、大きく人生観を変えられたそうです。
若林さんの「欠落」」が、DJ松永さんを救った瞬間でした。
本書は、まさにそんな日本の社会では「欠落」ともとれる視点を持つ若林さんだからこその描写や、消化の仕方に溢れた一冊なのです。
最後に、DJ松永さんが「解説」で若林さんに寄せた言葉を引用し、本書の魅力をお伝えしたいと思います。
俺は誓いました。
あなたのように生々しく生きていこうと。DJ松永「解説」より
まとめ
芸人さんの中には、非常にナイーブで繊細が故に、深い自己洞察能力を持った方がいらっしゃいます。
中でも若林さんは、伊集院光さんと並んで私が感銘を受けた方です。
人によっては、「考えすぎだろ」で済んでしまう問題も、若林さんにとっては大問題であり、感動であり、楽しさになります。
そんな1を100にするお話の中にある、若林さんの人生観や価値観が変わる様子に胸を打たれるのはきっと私だけではないはずです。
☆こんな方にオススメ☆
・こんなご時世だからこそ海外の話を聞きたいという方
・堅苦しくない活字の本を読みたいという方
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