般若vsR-指定に学んだ師弟の在り方

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2015年から放送が始まった番組「フリースタイルダンジョン」。

©テレビ朝日

この番組は、毎週チャレンジャーとなるラッパーが「モンスター」呼ばれる凄腕ラッパー5人に即興のラップバトルを挑み、賞金獲得を目指すものです。

日本のヒップホップシーンを大きく変え、世間にもラップバトルの存在を知らしめたその功績は計り知れません。

とはいえ、ラップバトルというと「YO!YO!」言いながら相手の悪口をいうディス(disrespectの略)が中心で、不良の文化というイメージはまだまだ根強くあるでしょう。

私はS-Laboという別のメディアでも以前この番組を取り上げた記事を書いたことがありますが、ラップバトルやラッパーの生き様には、僧侶がハッとさせられるような言葉がたくさんでてきます。

しかし5/14(火)放送回はもう何か言葉にせずにはいられませんでした。

Contents

般若とR-指定

今回の放送は冒頭で書いた番組の進行とは少し異なりました。

毎週チャレンジャーを待ち受けるモンスター呼ばれるラッパーは全部で6人。

そこに「ラスボス」という形で最後に待ち受けるのが般若」というラッパーです。

般若氏は2000年の初頭に活躍し、一度はラップバトルを引退して楽曲制作に専念、しかし2008年には日本一を決めるラップバトルの大会にふらっと出場して優勝してしまう実力の持ち主。

しかしそれ以降はバトルに出る事はなく、フリースタイルダンジョンでラスボスとして登場した時は誰もが興奮しました。

それから約3年半、ラスボスとして君臨してきましたが、前回の放送回でその座を降りることを発表。

自身の後継者とバトルをし、それを以ってラスボスの役目、さらにはラップバトルから身を引くことを明らかにしました。

そこで指名されたラッパーがR-指定(写真左)。

Creepy nutsオフィシャルサイトより

ラップバトル日本一を決めるUMBという大会を3連覇し、フリースタイルダンジョンでは「鉄壁の4人目」としてチャレンジャーの前に立ちはだかった、誰もが認める日本で最強のラッパーの1人です。

しかもその年齢は私と同じ27歳

自身の少年時代を「イケてない子どもでした」と振り返るように、その生い立ちや性格は世間一般のイメージするラッパー像とはかなり異なるものでしょう。

そんなR-指定が中学生の頃に曲を聴き、影響を受けたのが般若氏だったのです。

般若氏の1ファンとして憧れ、いつしか同じ舞台に立ち、そして次世代を託されることになったR-指定氏。

今回放送されたバトルには、世代の異なる2人による、観る者の心を揺さぶるものがありました。

ラップバトルとは

その前にまず、ラップバトルについて簡単に触れておくと、基本的にはフリースタイル、つまりそこには決まった形というのはありません。

その場でDJが流したビート(メロディ)に合わせてルールで決まった長さのラップをします。

そのラップは独自の節回しや、韻を踏むことで「自分」を表現し、相手を貶すこともあれば、称え合うこともあります。

ただ、貶すにしろ称えるにしろ、その根底には相手への敬意があり、ぶつかり合う中でお互いを表現する様はダンスバトルなどとも共通するところかもしれません。

今回のバトルはまさにその敬意があるからこその熱量があったような気がします。

実は、次のラスボスを任され、般若氏と戦うことになることを知らなかったR-指定氏。

驚きの表情と、8小節×2本の3ラウンドという短い間に溢れる想いをどう詰めこもうかという戸惑いにも似た表情が印象的でした。

そしてビートが流れ、バトルは始まるのでした。

歴史に残る一戦

”あぁ、これが最後かそうか ダンジョンのおれは迷子か”

般若氏のラスボスとしての自身の迷いや悩みを含んだような言葉から、2人の会話が始まります。

R-指定氏が

”ガキの頃見たおれに伝えてえ 今お前般若さんとやってるぜ”

と、自分の目の前に般若氏がいることへの感動を言葉にすると、

”十何年前のおれに問う こんな天才とやってんだって”

同じようにリスペクトを込めて返すのです。

それは「相手を倒す」ためのバトルではなく、1人の後輩ラッパーにあとを任せる、最後の「伝達の儀式」だったのです。

この「伝達の儀式」という言葉はこの場に居合わせたラッパーや放送を見ていた著名人のツイートなどからどこともなく生まれ、それぞれの世代や立場で、それぞれにメッセージを受け取ったようでした。

全部で3ラウンド行った今回のバトルの最後、般若氏はその直前に舌が回らなかったR-指定氏を踏まえて、こうメッセージを残します。

”よく聞け お前に無いのはタフさ よく聞け おれには無いのは弱さ

よく聞け 内面 そのメンタル お前にラスボスからの伝達”

まっすぐ目を見つめ、そう言いながらR-指定氏の肩を叩く般若氏。

 

この時、2人の間では第三者には見えない、言葉以上の何かが伝わったのではないでしょうか。

平成のヒップホップシーンを担ってきた1人のレジェンドと呼ばれるラッパーから、次の時代を託された瞬間でした。

啐啄同時

どんな世界にも先輩後輩・先生生徒・師匠弟子という関係があり、その中でわざを継ぎ、意志を継ぎながら歴史を紡いでいきます。

この、情報が溢れ、顔を合わせなくても資格や技術を身につけることができるようになった現代で、今回のお二人のバトルはすごく大きな意味を持つような気がします。

仏教、特に禅宗では啐啄同時そったくどうじ言葉を大切にしています。

「啐」というのは卵の中のひな鳥がまさに今孵化しようとして、内側から卵の殻を突っつくことを指し、

「啄」は親鳥がそれに合わせて外側から殻を突っついて孵化を助けることです。

同じように、今まさに孵化しようとしている弟子に対して、師匠がそれを後押しする一言をかけてあげることを「啐啄同時」と言います。

ひな鳥を孵化させるのは早すぎても遅すぎてもいけません。

本当に機が熟したのを見計らって外から突っついてあげなければならないのです。

今回、般若氏がR-指定氏にラスボスの座を託すにあたってバトルをしたのは、まさにこの「啄」だったのだと思います。

R-指定氏は私と同じ平成3年生まれの27歳。

年齢は大人でもまだまだ自分が未熟で、先輩や先生や師匠を頼りながら生きていたい部分も大いにあることでしょう。

しかしここで、ずっと憧れてきた般若氏と顔を合わせ、言葉を交わしたことで責任や覚悟を負う決意ができたのかもしれません。

あえて一度ぶつかることで本当の想いを伝える。

そうすることで、ひな鳥は殻を破り、弟子は自らの足で一歩を踏み出す。

弟子はずっと師匠の言いなりになるものでも所有物でもなければ、師匠は弟子がずっと甘え、頼り、依存するものでもない、そんな師弟関係の在り方に気づかされたような気がします。

番組史上、唯一勝敗をつけなかったこの試合は、ラッパーに限らず多くの人へ何か大切なことを教えてくれたのではないでしょうか。

※この回の放送はAbemaTVにて5/20まで無料でご覧いただだけます

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