スポンサードリンク

僧侶の視点から気づきのあったアレコレのレビューを書いていく【僧侶的よろずレビュー】

前回から特別編として、久保田と二人で観てきた映画「典座-TENZO」についてのレビューをそれぞれの視点からお届けしています。

渋谷アップリンクにてお金を払って鑑賞した一人の客でありつつ僧侶としての感想です。

あくまでも一意見としてご覧ください。

キャスト

あらすじは前回の久保田のレビューおよびオフィシャルHPをご覧いただくとして、ここでは割愛いたします。

この映画は、事実を元に再構成して作られた、半分フィクション・半分ドキュメンタリーの作品です。

主要な出演者のほとんどが実際の曹洞宗僧侶です

主人公である河口智賢さん、そして登場するご家族もご本人たち。

河口さんが実際に副住職を務めておられるお寺で撮影を行なっているので、限りなくが現実に近い様子が収められています。

他にも、作品の中で知り合いの曹洞宗僧侶の方もチラホラ発見したりと、不思議な気持ちでスクリーンに向かいました。

作品の概要

では、その内容に関してここから曹洞宗の僧侶であり、一観客として述べていきたいと思います。

監督・制作陣

今回監督を務められた富田克也監督は、河口さんの実の従兄弟だそうです。

そして富田監督と共に編集をされた古谷卓麿さんは、「Mr.麿」という名前で活動をするラッパーでもあります。

そんな古谷さんが所属するのが、今回は撮影と照明を担当した「スタジオ石」

このスタジオ石、日本のヒップホップが好きな人はどこかしらでその作品に触れたことがあるだろう、というくらい、有名なラップのミュージックビデオの制作をされています。

何気ない日常生活や身近に存在する自然の風景を芸術に昇華させた点では、まさに本領発揮といったところでした。

また、こうしたつながりから、作品中の挿入歌や友情出演などでところどころヒップホップ要素が混ざっています。

また後から触れますが、この予備知識なくご覧になった方は、ところどころに現れるヒップホップ関連の演出に驚かれたのではないでしょうか。

この映画が伝えたもの

この映画は62分という時間の中に、実に様々なエッセンスが詰まっています。

修行道場の映像に始まり、僧侶の日常や葛藤、精進料理教室、3.11被災地の様子、自死相談、中国、そして青山俊董老師の言葉。

大まかに挙げてもこれだけの要素があり、さらに二人の僧侶それぞれの物語というとてつもない情報量です。

その中で、観客はそれぞれの心に琴線に触れるような言葉や光景を選びとって、多くを感じ、我が身を振り返ることができるのかもしれません。

過去、修行道場の様子や葬儀の様子を収めた映像はあっても、曹洞宗の僧侶が一人の人間として悩み・もがきながら社会の中で仏道を歩まんとする様子を描いたものはなく、歴史上にも見る側にも初めてのことであるといえるでしょう。

「曹洞宗の教え」と「僧侶のリアル」、そして「信仰の在り方」これを伝えることが、映画制作のきっかけであり、作品の目標としてあったようです。

僧侶として観た感想

見切り品のお弁当を仏行にした功績

後半、福島の仮設住宅で生活する僧侶、倉島隆行が自宅で見切り品のお弁当に手を合わせ「五観の偈」を唱えてから箸をとるシーンがあります。

私は現代社会で曹洞宗の教えを伝えていく上で、これはとても重要なことだと思っています。

私たちの心のどこかには、コンビニのお弁当やファストフード、冷凍食品といった手軽な食品や食事というのは、高級なレストランや人の手料理と比べるとどこか劣ったものに考えてしまうところがあります。

しかし、手間がかかっていようが、簡単にできようが、肉だろうが野菜だろうが、私たちはいのちを食べ物にしています。

収穫されなければもっと育った植物や、解体しなければまだ生きていた動物が、食べ物となって手元にやってきている、それを修行を為すためにいただきます、というのが五観の偈の内容です。

様々な状況下で口にする食事。

そのどれもが、こちらの向き合い方次第で仏行になっていくことを、このシーンで示したのです。

何事にも優劣をつけてしまいがちな現代社会の中で、このシーンは大きな意味を持つと思いました。

「六味」の謎

私の理解が追いつかない演出がいくつかあったのですが、その一つが「六味」です。

この作品は、各シーンごとに「六味」の一つが画面に現れます。

六味というのは、道元禅師が「典座教訓」の中で著した食べ物がそれぞれにもつ味の個性甘・酸・辛・苦・鹹・淡のこと。(その内容はまたの機会に)

その六味が、たとえば冒頭のシーンのはじめに「甘」、次のシーンに移ると「酸」というように、全6シーンで一つずつ表示されるのですが、これが今ひとつ意図がわかりません。

味には違いはあれど、良し悪しや上下はないのですが、それを喜怒哀楽の感情とリンクさせようとしたのでしょうか。

私には難解な表現でした。

本当に僧侶のリアルを伝えたのか

様々なレビューサイトを見ていると、この映画は概ね高評価を受けているようです。

レビューの中で多く見られる意見の一つは、「映像の美しさです。

確かに、スタジオ石による情景の描き方は雪の冷たさや太陽の温もりが伝わってくるような臨場感と、肉眼で実物を見るより綺麗なのでは、とすら思わせる美しさがあり、これにはとても納得がいきます。

もう一つは僧侶のリアルな日常を描いているという意見です。

寺院に生まれたというルーツを持つ僧侶が、現代社会の中で「僧侶とは何か」を思い詰める中で、青山老師が発する言葉には、思わず私も頷いてしまいました。。

しかし正直なところ、それ以外に関して言えば、この映画は日本人の思う「禅っぽさ」を詰めこんだものに見えました。

内側の人間からすれば、曹洞宗の僧侶のリアルを描くのだとしたら、そうはならないだろうという部分がたくさん出てくるのです。

特徴的だったのは坐禅をするシーン。

本堂の真ん中、本尊様に向かって坐禅をしてみたり、草原でしてみたり、中国の寺院でしてみたりする中で、曹洞宗の形である壁を向いて坐禅をすることはありませんでした。

言ってしまえば、全て見栄えのする形、場所での坐禅ばかりなのです。

また、タイでの長期滞在経験がある富田監督と、日本らしいHIPHOPのミュージックビデオを撮るスタジオ石による制作ならではのエスニックとSFが混ざったような独特の効果が、「ぽさ」を強調してしまっていたように思います。

曹洞宗の僧侶がぶつかる悩み苦しみ、そしてそれに答える青山老師のお言葉はまぎれもないリアルだっただけに、フィクションゆえの派手さが前面に出てしまった、そんな印象です。

公式HPより

まとめ

この映画は、ある意味では社会が求めている僧侶の世界、禅の世界に対する期待に、大いに応えた作品であると思います。

だからこそ、多くの人がその非日常的な世界や荘厳な景色に心を奪われ、感動を覚えたのでしょう。

しかしそこには、これから僧侶が大々的に発信する時には注意を払うべき、いくつかの課題がありました。

課題①世間のイメージに合わせにいってしまう

これは先ほどほとんど触れた部分です。

坐禅にしても食にしても修行にしても、曹洞宗の禅に対する世間のイメージと実際の私たちの世界にはズレがあります。

このブログをご覧いただいている方はご存知のように、実は曹洞宗の教えにある修行や生活というのは、特殊な環境や厳しさという類のイメージよりもずっとずっとシンプルで日常の側にあるものです。

坐禅だって、食事だって、掃除だって、生活の営みを丁寧にするところに意味があるのです。

壮大な演奏をバックにした般若心経が脳内に流れ、世界中の人々がタイの涅槃仏に集約されるような今回の表現が、本当に禅の世界なのでしょうか。

私には共感ができません。

それよりも、スタジオ石の代表作の一つ「ゆれる feat.田我流」のミュージックビデオの方が、ずっと禅に近いと、私は思うのです。

このミュージックビデオを見た時、なぜただの男性の休日に見入ってしまうのだろうと、私は不思議で仕方がありませんでした。

しかしある時、こんなごく平凡な生活の一コマにこそ、人間が生きることの尊さがあったからだと、気づかされました。

ごくごく平凡なその一コマをどう過ごすか、どんな風に命を費やすのか、そこに禅の生き方が集約されていると、私は思います。

この曲に関してはすでに一度ご紹介していますので、こちらの記事もご覧ください。

②製作陣に正しく曹洞宗の認識を伝えることの難しさ

また、今回の映画のパンフレットを見てみると、今回の映画は製作陣に正確な認識が伝わっていない部分が見て取れます。

たとえば、あらすじを見てみると、兄弟弟子とは同じ師匠の元で出家をした人のことですが、ここでは修行道場の先輩と後輩の関係を兄弟子・弟弟子として表現しています。

おそらく、その辺りの言葉の細かいニュアンスの違いなどは伝えきれなかったのだろうな、ということが推察されます。

テレビ番組もそうですが、映像や紙面の製作者は、ある程度のイメージを持って話を聞きにきます。

だからこそ、こちらの実際との差異がなるべく無いようにすり合わせをしていく必要があるのです。

外に発信する以前の、製作陣に対する綿密な布教、これは非常に重要な課題です

最後に

無論、この映画による問題提起や、曹洞宗というものを発信していくことに注がれたエネルギーには、大きな敬意を表します。

しかし、せっかくこの製作陣なら、世間のイメージに合わせににいくのではなく、シンプルな中にある禅の美しさが表現できたのでは?という風に私は思うのです。

出演された諸先輩方をはじめ、全国曹洞宗青年会の皆様、富田監督、スタジオ石をはじめとする制作班の皆様、この映画の制作という大変素晴らしいアクションに感謝と敬意を表した上で、一観客・一僧侶として生意気ながら感想を綴らせていただきました。

合掌

おすすめの記事