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これは私、深澤亮道が福井から岩手までの700Kmを無一文で歩いて帰った物語である。
Contents
前回までのあらすじ
vol.3でついに永平寺を出発した私、深澤亮道ですが・・・
なんと開始2時間半ほど歩いた山の中腹で、リタイアを考えるほどの腹痛に襲われました。
痛み止めの薬を飲み、少しの時間休憩したことにより、なんとか歩けるまで回復したのですが、漆黒の闇が私の行く手を阻みます。
そんな中、1台のバンが止まり強面のリリー・フランキー似のおじさんが「おい!乗れ!」と私に声をかけてきます。
恐怖に慄きながらも、おじさんの車に乗り込む所までお伝えしました。
↓バックナンバーは以下から読むことができます。
全て3分ほどで読める長さです!
今回は、「至難の峠越え」と題し「おじさんとの誓い」と「初めての野宿」「お弁当のお布施」をお送りしたいと思います!
おじさんとの誓い
vol.2 「旅支度と3つのルール」でお伝えしましたが、私はこの旅でお布施は全ていただくと決めて永平寺を出発しました。
リリー・フランキー似のおじさんの好意(?)も全てお布施と捉え、恥ずかしながら初日から車に乗りました。
リリー(以下、リ)「こんな暗闇の中歩いていたらあぶねーじゃねーか!」
私「すみません・・・(恐怖で声にならない)」
リ「こんなとこで何してたんだ!?」
私「斯々然々で永平寺から岩手まで歩い帰るところで・・・」
リ「そうか。大変だな。俺は今日越前市で仕事をしてこれから金沢市まで帰るがそこまで乗っていくか?」
私「いや、すぐそこの道の駅までお願いします!そこで野宿をする予定なので。」
目的地である「山中温泉ゆけむり健康村ゆーゆー館」まで、距離にして残り5Kmぐらいのところでした。
お布施と捉え車には乗りましたが、金沢まで乗ってしまったら【永平寺から無一文で歩いて帰るもん。】が【永平寺からヒッチハイクで帰るもん。】になってしまいます。
あと、単純にこの人が怖いというのもありましたが・・・
車内に少しの沈黙が流れた後、リリーおじさんが口を開きます。
リ「俺はな、坊さんが大っ嫌いなんだよ」
私「!?」
この時、心臓がはち切れるかと思いました。
ああ、終わった・・・
嫌いならどうして車に乗せたのだろう・・・
このまま拉致されて、明日のニュースに載っているかもしれない・・・
リ「嫌いって言ってもな、全員が嫌いってわけじゃないぞ?
太った坊さんが大っ嫌いなんだよ。
あんなの見てて見苦しいだろ。
醜くて見てられない。
おっさん(北陸地方では和尚さんを省略してこのように呼ぶ)はお坊さんとして歩むなら、絶対太るなよ!」
リリーおじさんの発言はかなり差別的な表現にも聞こえます。
しかし、この時私は小さい時から友達に言われてきたことを思い出しました。
「お布施でいい暮らしをしているんだろ?」
「お坊さんはいいよな。お布施だけで生活できるんだから。」
小学校の時の友達は、お坊さんは布施をもらって生活をしている。つまり、お経を詠むだけで、楽に生きていると思っていたようです。
父親がお坊さんであることが本当は誇りであるはずなのに、どこかお坊さんという生き方が肯定できない自分がいました。
現に大学4年生までは最もなりたくないのがお坊さんでした。
それは、お布施をもらって生きていくという怖さみたいなものを感じていたからなのかもしれません。
リリーおじさんの言葉は痛烈に私の胸に刺さりました。
そして、こうした意見を持った方が確かにいるのだと改めて気づきました。
これから私が歩むのは、それだけの覚悟を持って生きていかなければならない道だったのです。

イメージ図
時間にして10〜15分の短い時間でしたが、目的地である「山中温泉ゆけむり健康村ゆーゆー館」に到着しました。
リリーおじさんは最初は怖かったですが、暗闇の中私を救ってくれた救世主、そして言葉は厳しいですがお坊さんとして生きていく中での一つの戒めを授けてくれた人でした。
気づいた時には、お腹の痛みはいつの間にか消えていました。
もしかしたらあのお腹の痛みは、おじさんと引き合わせるために起きたのかもしれません。
「頑張って岩手まで歩いて帰れよ!」
簡単に挨拶を済ませ、リリーおじさんと別れを告げたのでした。
初めての野宿
初日とは思えないくらい色々なことがありましたが、なんとか無事に目的地に到着しました。
「山中温泉ゆけむり健康村ゆーゆー館」は道の駅ではありますが、日帰り温泉施設が隣接しており、またテニスコートやフィットネスジムもある施設ですので、近くを通った際には是非ご利用ください。(私が到着した時にはすでに真っ暗だったので、何がなんだかわかりませんでしたが。)
初めての野宿ということで、なるべく人目につかないところがないかを探します。
駐車場は広々としているのですが、中々人目につかない場所は見つかりません。
「お!ここなら人目につかないだろう!」
と、私が見つけた場所は、自動販売機の裏。
早速私は、荷物を置き、コンクリートの上に銀マットと寝袋を広げ、托鉢の衣装から作務衣に着替えます。
「よし、寝よう。」
10分後・・・
汗でベトベトになった体、20Km以上歩いたことによる空腹。
私の頭の中で、歩いて30秒のところにある温泉施設がチラついて眠れません。
頭の中で天使と悪魔?いや、ブッダとマーラ?が囁きます。
その結果・・・
誘惑に負けてしまい、門前のお姉さま達から頂いたお布施1500円を手に、入浴料560円で温泉に入り、ラーメン780円を食べてしまいました。
この時の私は、漫画「賭博破戒録カイジ」で地下強制労働施設で1ヶ月で貯めた僅かな資金で、散財をしてしまう主人公 伊藤開司と同じ気持ちになりました。
おじさんの誓いを忘れたわけではない。
今回ばかりはしょうがなかったと自分の中で言い聞かせます。
残金160円になりましたが、汗を流し、お腹を満たし、硬いコンクリートの上で眠りにつくのでした。
お弁当のお布施
am6:30
小鳥のさえずりと、爽やかな朝日で目をさまします。
初めての野宿でしたが、温泉に入ったおかげか寝苦しさもなく、疲れもそこまで感じていません。
ただ、コンクリートの上で寝たので、体のあちこちが少しだけ痛みを感じます。
2日目の目的地は石川県小松市の小松駅。
この日の歩行距離は、23Kmと割と緩やかな行程です。
ただ、この日も野宿の予定でしたが、どこで野宿をするか場所は決めておらず、とりあえず小松駅を目指して歩き始めました。
am7:00
「山中温泉ゆけむり健康村ゆーゆー館」を出発しました。
昨日の苦しさとは打って変わって、その足取りは軽く進みます。
青々とした木々の中に、薄っすらと紅葉が混じります。
車に乗っていると一瞬で終わってしまう景色を楽しむことができるのも、徒歩ならではのことかもしれません。
風光明媚な景色の中、緩やかな下り坂を歩きます。
山の景色から、だんだんと田園風景に変わっていき、4時間ほど歩いたお昼の12時頃に加賀市から小松市へと入りました。
pm1:00
田園風景を抜け、北陸の主線道である国道8号線にぶつかり、そのまま北上します。
グゥーとお腹も鳴り始めた頃、いきなり前から声をかけられました。
「これ!よかったら食べてください!」
私の目の前にはビニール袋を持った50代くらいのおじさんが立っています。
「さっき、歩いているのを見かけて、お弁当を買ってきたんで、よかったらどうぞ!」
なんと、私が歩いているのを見かけて先回りして、お弁当を買って持ってくれたそうです。
昨日のリリー・フランキー似のおじさんといい、こんな不審な格好をしているお坊さんにどうしてこんなに好意を寄せてくれるのだろうか。
まさに、漫画「賭博破戒録カイジ」で沼と呼ばれるパチンコ台に挑んだ、主人公 伊藤開司と同じ気持ちになりました。
補足として述べておきますが、私はギャンブルは全くやりません。
おじさんからお弁当のお布施を有り難くいただき、再び小松駅に向けて歩き始めるのでした。
続く
次回予告
リリーおじさんとの誓いの数十分後には、温泉に浸かり、ラーメンを食べるという豪遊をしてしまった、深澤亮道。
それもまた己の弱さを痛感しました。
初日から色々あった山中温泉の峠を越え、小松駅を目指しひた歩きます。
次回は「小松駅での托鉢」と「松尾芭蕉が立ち寄ったお寺?」をお送りしたいと思います。
vol.4「至難の峠越え」を読んでいただきありがとうございました(^ ^)
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