
スポンサードリンク
不定期更新企画【僧侶的よろずレビュー】。
ここでは禅活-zenkatsu-メンバーが触れた本・映画・食べ物などなど、ジャンルを問わずご紹介していきます。
前回は私が尊敬する南直哉老師の著書をご紹介しました。
今回はとある保育園の取り組みから話題になった、食育に関する本をご紹介します。
Contents
「手づかみ食べ」の衝撃
私が手づかみ食べという食育の方法を知ったのは偶然目にしたネットの広告か何かだったと思います。
僧侶の立場から食のことを勉強していますが、一般の本から学ぶことはとても多く、なるべく目に付いたものは読むようにしています。
その中でもこの本は大当たりでした。
保育士として活躍されてきた清水フサ子さんと、養護学校を中心に児童教育に携わってこられた山口平八さんの対談形式で展開されるお話に、目から鱗がたくさん落ちました。
清水さんが創設した埼玉県の保育園では、園児たちは薄味で柔らかく煮た野菜を手づかみで食べます。
人参や春菊など、子どもが苦手そうな野菜を豪快にモリモリ食べます。
子どもたちが手よりも大きな野菜をワイルドに手づかみで食べている様子がなんとも可愛らしい…。
ただ、この見た目の可愛らしさ以上に、人間の成長と食の関係の深さを知ることができます。
それは科学的な統計やデータではありませんが、子どもの成長を間近で見てきた方の言葉はそれ以上の説得力があります。
元々はネットで連載されて大反響を呼び、一冊の本となったこちらの対談。
ここではその内容を私が感銘を受けた2点に絞ってご紹介します。
1、「食べる意欲」と成長
よく、小さい子どもの食事風景というと、大人がスプーンで「はいアーン」とやっているところを目にします。
時々目にするその光景に、私は一つだけ違和感がありました。
それは「子どもが食べ物を見ていない」ということです。
もちろん100%がそうだとは言いませんが、お子さんを大人しく座らせるためにテレビやスマホなどで注意を引き、その横からスプーンを差し込む。
子どもを育てたことのない私が言うのもなんですが、これは食事なのか?と思ってしまいます。
この本の中では、まずはじめに子ども自分から「食べよう」という意志が湧くのを待つそうです。
そしてそのコツは、大人が向かい側で美味しそうにご飯を食べることだそうです。
たとえ相手が小さば子どもでも「美味しいね!」と言いながら一緒にご飯を食べると、その真似をして自然と手を伸ばすのだとか。
そして食に対して意欲を示し、進んで食べるようになった子どもは、スプーンやお箸を自分から覚えようとし、さらには遊びや勉強に対しても主体的になっていくそうです。
「食べる」という生命維持活動に対する向き合い方が、その後の成長にも関わってくるというのはとてもおもしろいと思いました。
薄味と好き嫌い
また、この本で紹介されている食事の内容と言うのは、離乳食だと出汁で柔らかく煮ただけの野菜で、年中・年長の子どもの食事でも薄味にこだわっています。
今人気の離乳食、つまり子どもがたくさん食べてくれるものというのは、実はかなり味付けが濃くなっているそうです。
それは大人が食べるものも同じで、わかりやすい一つの強い味付けによって、脳がその刺激を覚えるようになります。
すると何が起こるかというと、どんなものでも同じ調味料をかけてその味に染めてしまったり、味がわかりにくい食べ物を嫌うようになります。
これは精進料理にも通じるものがあって、食べ物には持って生まれたそれぞれの味わいがあります。
調味料というのはその食材の味を調和させていくものであってひとまとめに同じ味付けにするものではありません。
これを人間関係に置き換えてみると、どんな人と付き合っても全部自分の好みを押し付けて、染まらない人とはサヨウナラ、ということになります。
この保育園の子どもたちは、最初に素材の味に出会うことで、野菜の素材の味を楽しみ、個性を味わうようになっていくそうです。
食との向き合い方が教えてくれるもの
この他にも、食を通して見る子どもの成長というのは非常に興味深いものが多くあります。
そして、食を中心に生活を正していくことが健やかな心を育むというのは、禅の修行と大きく共通するとことがあります。
私は、この本は単なる子育ての本ではないと思います。
もちろん子育て中の方ほど実践しやすいことも多いとはありませんが、大人が自分の食との向き合い方を見つめ直すのに非常に良い機会になると思います。
自分はどうやって食と向き合ってきただろう?
どんな生活をしているだろう?
今抱えている悩みはそこに通じてはいないだろうか?
そんな振り返りをしながら読むと、たくさんの発見がある本です。
☆こんな人にオススメ☆
・これから子育てがはじまる方
・食べ物の好き嫌いに悩んでいる方
・生活を見直したい方
『子どもの 「手づかみ食べ」はなぜ良いのか?』(山口平八・清水フサ子著/IDP出版/2016年)
※商品ページに飛びます