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不定期更新企画【僧侶的よろずレビュー】。
ここでは禅活-zenkatsu-メンバーが触れた本・映画・食べ物などなど、ジャンルを問わずご紹介していきます。
前回は食と人間の深い関係性を学べる〈子どもの「手づかみ食べ」はなぜ良いのか?〉をご紹介しました。
今回はゴミ清掃員さんの知られざる苦労や意外と知らないゴミ出しのアレコレを知ることができる漫画&コラムの本をご紹介します。
Contents
本の内容
この本は、お笑い芸人として活動しながら、ゴミ清掃員として生計を立てているマシンガンズの滝沢秀一さんの体験を妻である友紀さんが漫画にしたものです。
芸人としての収入が思うようにいかず、アルバイトとして始めたゴミ清掃員のお仕事。
元々は「ゴミ清掃員あるある」としてTwitterで公開したものが反響を呼んで書籍化された本作は、柔和なタッチの絵とほのぼのしたエピソードが特徴です。
しかし時折見せる、夢と現実の狭間での心の動揺や、生きていくことの大変さと闘う姿には胸を打たれます。
ゴミ清掃員として体験した迷惑なことや嬉しいこと、様々な出会い別れ、小さな感動が描かれた一冊。
ここには私たちが「仕事」を考える上で非常に重要な精神が盛り込まれています。
ゴミ清掃と「作務」
禅活-zenkatsu-の活動の柱でもある「作務」は「作すべき務め」と考えることができます。
作務というと、お寺の庭掃除をイメージされるかと思います。
しかし実は、作務は元々修行生活を送るのに必要な労働全てのこと言います。
そして、掃除や料理や畑仕事という、修行生活を成り立たせるのに必要な作務そのものが、坐禅と同じ修行そのものとなっていったのです。
この本の原作・構成であるマシンガンズの滝沢さんは、自分の夢である大好きな漫才を続けながら家族を養うため、ゴミ清掃員の仕事をされています。
そこで相当大変な思いをされていることが、本を読めばわかります。
きっと数え切れないほど「こんなはずじゃないのに」と思ったことでしょう。
しかし、修行を成り立たせるための作務がいつしか修行そのものになったように、夢のためにしていたゴミ清掃の仕事が、こうしてお笑い芸人の仕事、芸能の仕事として実ったのです。
本来したい仕事とは違っても、手を抜かずの取り組んだ結果ですね。
世界は誰かの仕事でできている
以前、缶コーヒーのジョージアのCMに「世界は誰かの仕事でできている」というシリーズがありました。
その中で「つながっている篇」というCMは、道路工事をしている山田孝之さんが休憩中にコーヒーを片手にスマートフォンをいじりながら一言「このスマホ作った人すげーな」とつぶやくところからはじまります。
すると場面が切り替わり、スマホを開発した人が美味しいお弁当を開発した人に感心します。
そして今度はお弁当の企画開発した人は農家さん、農家さんは運送業社さんに感謝すると、最後に運送業社さんが「この道ができて助かったー」と言いながら、山田さんの横を通り過ぎていくのです。
私は今、自宅でこのコラムを書いていますが、身の周りに人の手が掛かっていないものはありません。
このパソコンはもちろん、椅子も机も部屋も家も家の前の道路も、全て誰かの仕事でできています。
そして、ゴミ清掃員の方がいなければ、私は今頃自分が出したゴミに埋もれて部屋から出ることすらできなきなくなっているでしょう。
そんな、誰かの仕事に支えられて、私は僧侶として生きることができています。
だからこそ自分の生き方で何かできることはないだろうか、人の役に立てないだろうかと考えるのです。
今日のゴミから世界が変わる
今このコラムを読んでいる方のお仕事や家事、ちょっとした日常生活の1コマが、巡り巡って私を支えてくれていて、私の行いもまた巡り巡って誰かの元に届いている。
これは仏教の説く縁起の教えであり、私たちが悪いことをしてはいけない理由であり、労働に大切な精神だと思います。
ゴミ清掃員という、なかなか知ることのできないお仕事だったからこそ、より強くそれを感じることができたのかもしれません。
まだまだ、私たちの想像もつかない大変なお仕事は世の中にたくさんあります。
全てのお仕事の苦労を知ることはできなくても、今日捨てるゴミの一つを変えることならばできるのではないでしょうか。
ゴミ集積所では、集められたゴミの何気ない気遣いがとても嬉しく、何気ない適当さが大迷惑を生んでいることが、この本でよくわかります。
今日、スターバックスのカップを缶のゴミ箱にねじ込むのをやめれば、思いがけないところで誰かが喜び、巡り巡って自分の大切な人を喜ばせることになるかもしれません。
この本で知ったゴミ清掃員という仕事の日常は、私にそんなことを気づかせてくれたのでした。
「ゴミ清掃員の日常」原作・構成/滝沢秀一 漫画/滝沢友紀(2019年・講談社)
※商品ページに飛びます。
☆こんな人にオススメ☆
・ゴミの分別について知りたい人
・働くということについて悩んでいる人
・活字が多いのは苦手な人