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突然ですが、「僧侶」とひと口に言っても、実は色んなタイプがあります。
たとえば、お経の唱え方や法要儀式関係に詳しい方や、会社や経済学の視点を寺院運営に取り入れる方、あるいは幼稚園の経営などをする方もいらっしゃいます。
かく言う私は祖父の代から法話などを中心に活動する、布教教化活動に重きを置いているタイプです。
元々人前に出ることに苦手意識がなかったこともあり、法話を考えることには苦労していますがお話しすること自体には抵抗がありません。
しかし、結婚式などに参列してみると、実は人前で話すことというのはどうやら苦手・嫌いな方が多いようです。
とはいえ苦手でも嫌いでも、話さざるを得ない場面が誰しもあるはず。
そこで、人前で話すことに苦手意識をもっている方に向けて何か書けないかなあと、改めて普段自分が意識していることを考えてみました。
すると、私はかなり普段聴いている音楽、見ているアーティストの立ち振る舞いに影響を受けていることに気付きました。
その音楽のジャンルはラップ。
私は人前で話をする上で、ラップという音楽やラッパーの立ち振る舞いに、多大な影響を受けていたのです。
今回は、そんなラップやラッパーから学ぶ、人前で話をする時のコツをまとめてみました。
Contents
①韻に気を付ける!
まずはじめに、ラップの重要な要素には「ライム(rhyme)」と「フロウ(flow)」があります。
ライムというのはいわゆる韻を踏むことで、母音が同じ言葉を重ねて独特のリズム感を生み出します。
たとえば、敬愛するRHYMESTERの宇多丸さんのリリックを見てみましょう。
そしてまるで何事も起こんなかったように
慣れてくんだろうフツーにブルーな月曜日
昨日までの道理が今日からの不条理
と化したってすぐに終わっちゃくんないこのストーリー(RHYMESTER/It's A New Day)
ここでは「ように」「(月)曜日」「道理」「(不)条理」「(ス)トーリー」と、「oui」の母音を合わせて5つの言葉で韻を踏んでいます。
口に出してみるとわかりますが、これによって歌詞の中にリズムが生まれています。
ラップというのは元々アメリカで、「お前の母ちゃん出べそ!」をいかにウィットに富んで言うか、というところから始まり、それを音楽として昇華させていった音楽なわけですが、そこで大切な要素の一つとなったのがこのライム(韻)でした。
時代も国も超えて、中国で詠まれた漢詩などでも韻を踏むことを考えると、音の響きを揃えるということが表現として非常に重要であることがわかります。
韻の活かし方
さて、それではこれを人前でどう活かすか、というと何も韻を踏みましょうということではありません。
むしろ、無意識に踏みすぎないように気を付けること、これが重要です。
たとえば私が、
「本日司会進行を務めます、西田稔光です。緊張していますが、よろしくお願いします。」
という挨拶をしたとしましょう。
聞き手の方は「進行」と「稔光」がダジャレになっていて、「緊張」も同じ韻になっているため音としては妙に耳に残ります。
この、無意識の韻というやつがかなり厄介なんです。
特にダジャレになってしまうとかなり厄介で、何も間違っていないのにどこか滑稽さが出て、それを感じ取った聞き手の空気感でこちらがさらに焦るという悪循環すら起こします。
ひとまず、これはあくまでも例として挙げましたが、こうした「進行」と「稔光」のように完全なダジャレにはならないまでも、緊張していたり慣れていない、苦手意識の強い方に見受けられる特徴があります。
それは、語尾が同じになりやすいということ。
先ほど書いたように、韻というのは言葉にリズムを生み出します。
そこで語尾のパターンが「〜でした。」「〜です。」の二つくらいに絞られてしまうと、聞き手にとっては一定のリズムが延々と続いていると感じる上に、話すこちらも非常に抑揚がつけにくくなってしまうのです。
人前で話をするときには、事前の準備の段階で、語尾のレパートリーに幅を持たせる。
これだけで聞き手は聞きやすくなり、話している自分も余計なところで焦る心配がなくなります。
ラッパーのように上手に韻は踏めない分、下手な韻を踏まないように私は気をつけています。
②フロウをうまく使う!
次にラップで重要なのが「フロウ」、いわゆるメロディのことです。
ラップというとただ早口で「Yo!Yo!」と言っているだけだと思われている方も多いかもしれませんが、韻と同じく重要なのがフロウです。
韻が打楽器なら、フロウは弦楽器や鍵盤楽器だと思っていいただければわかりやすいかもしれません。
リズムの上に言葉を乗せていく時、このフロウがあることで、音楽としての個性や魅力がグッと上がります。
CreepyNutsのR-指定さんは、「みんなちがってみんないい」という曲で、様々なラッパーのフロウや発声の特徴を模していますね。
フロウはラッパーにとってオリジナリティの見せ所になっているわけです。
フロウの活かし方
ラップを聴いていて、なによりも人前で話すときに参考にしたいのがこの、フロウです。
まずはこちらをご覧ください。
この動画は「真・ADRENALINE」というラップバトルのイベントの決勝戦で、再生開始のシーンは優勝した輪入道さんの即興のラップです。
はじめにゆったりとしたフロウでラップし、一拍おいた後一気にフロウを変えることで、聞き手を一気に惹きつけていますよね。
こうした間の取り方、抑揚の変化は話をする上で大きな魅力となります。
映画で言えば効果音、マンガで言えば吹き出し、このブログで言えば太字といったように、表現には重要な部分を強調する工夫が必要です。
例えば私は法話をする時、仏教経典の言葉や、その話の核となる箇所の前に少し間を空けることで聞き手は自然とそこが重要であることに気づいてもらえるように工夫します。
他にも二度繰り返したり、スピードを変えたりする工夫もできるでしょう。
ラップのフロウというのは、「ここを聴いて欲しい」という思いを聞き手に届けるテクニックなのだと、私は感じています。
話しをすることに苦手意識がある方は、自分の話に間ができることを恐れて、次々にいうべきことを押しこんでしまう傾向があります。
そこで、原稿には実際に口に出すことを想定して句読点を打ったり、楽譜でいうところのブレスのような記号を書き込んで、一呼吸間を明ける場所を決めておくだけでも、話の重要なところがわかりやすく、尚且つ落ち着いて見えるようになるはずです。
また、一度自分の話を録音して、言葉の初めに力が入ってしまう、語尾が消えてしまうなど、知らない間についた自分の癖などを把握しておくと、より話し方をコントロールしやすくなります。
まとめ
今回はライムとフロウ、というラップの要素から、人前で話すときのコツを考えてきました。
①韻に気を付ける!
②フロウを上手く使う!
この2つが今回のポイントとなりますが、まずは意図せずに身についた自分の癖を把握することも大切です。
客観的に自分を見ることで、必要以上に恥ずかしくなったりする必要がなくなり、そこに工夫を加えれば自信を持って人前で話せるようになるでしょう。
2500年前からある仏教の経典では「お釈迦様は詩をもって説かれた」という言葉に続く一節がよく登場します。
日本語に訳されたものを読んでいる私には、現代語訳特有の読みづらさがあるなあと感じるのですが、インドでこれを聞くと独特のリズムや節があって、非常に耳障りがいいそうです。
また、中国・日本の祖師方はしばしば漢詩によってその教えを表現してきました。
言うなれば、お釈迦様はフロウを操り、祖師方はライムを巧みに使って、教えをわかりやすく伝えてきたのです。
仏教が今日まで伝わるうえで、韻とフロウは大きな役割を果たしてきた、非常に重要なテクニックなんですね。
私はラップは聴く専門ですが、こうして考えてみると本当に色んな学びをくれるジャンルであることに気付きました。
これからも僧侶かつ1ファンとして、HIP-HOPというカルチャーの良いところを取り入れながら発信していきたいと思います。
その際はまた懲りずにお付き合いください!