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食肉加工の現場と、そこへの差別や偏見に対する疑問から出発したこちらの連載。

第1シリーズ「食肉加工場にいってきました」では食肉加工場の様子と職員さんの苦悩、理不尽な差別の現状をお伝えしました。

第2シリーズ「肉食と不殺生」では、インド・中国を経て日本へと伝わった仏教が肉食や殺生をどう捉えてきたかに触れています。

そして現在の第3シリーズ「曹洞宗の立場から考える」では、肉食や不殺生について、曹洞宗の教えからの捉え方について考えています。

前回は曹洞宗の「仏性」の捉え方を基に、「いのち」の捉え方を書きました。

今回は、私が曹洞宗の食の教えに大きな確信を得た、いわば現在の活動のきっかけともなった不殺生の捉え方についてお伝えします。

食べることは殺生?

シリーズ2「肉食と不殺生」でもご紹介したように、仏教において最も大きなタブーである「殺生」は、時代や地域によって様々な解釈がなされてきました。

お釈迦様がいらっしゃった当時の仏教では、動物の生命活動を止めることを殺生とし、草木を傷つけることは殺生とはまた別に不善の行為とされていました

前回触れたように、その根底には当時中心となっていたバラモン教での生贄の供犠に対する反発があったと言われます。

その生贄は願いに応じて対象の動物が変わったらしく、時には人間が捧げられることすらあったようです。

そうした、自分の願いや幸福のためには他の命を厭わないという姿勢を否定することが不殺生の出発点であったことは非常に重要ですね。

お釈迦様の死後、仏教は時と共に変化しながら動物と植物、さらには鉱物や人工物に至るまで、「命」の範囲をどんどん広げていき、ついにはこの世界全体が一つの「仏の命」であるという曹洞宗の捉え方が生まれました。

そうなると、肉食=殺生、つまり飲食が殺生となるなら植物を食べても水を飲んでも殺生になってしまいます

そして仏教では殺生を戒めている。

つまり、食べることが殺生なら人は生きていけなくなってしまうのです

では、実際に曹洞宗ではどのように不殺生を説くのでしょうか?

不殺生に対する疑問

「食べることが殺生なら、僧侶はどう生きていけばいいんだろう?」

そんな疑問を抱いていた私に、大きなヒントをくださった方がいます。

それは奈良康明老師という、駒沢大学の学長や永平寺の西堂というお役をお勤めになった、曹洞宗では誰もが知るお方です。

私は奈良老師がお亡くなりになる2年前から、老師のお寺で開催される「仏典を読む会」に時々参加させていただいていました。

その日、老師は曹洞宗の戒に関するお話の中で、こんなことをおっしゃいました。

 

「私どもの言う命というのは、一般的な生命のことでははなく、そのもののはたらきなんですね。そして、不殺生というのはそのはたらきを〈生かしきる〉ということなんです。

 

私はこのお言葉に衝撃が走りました。

それまで私は、戒というものを「あれをしてはいけない」「これをしてはいけない」というルールのように捉えていました。

だから、「殺してはいけないならどう生きていけばいいんだ」という疑問が沸いたのです。

そうではなく、命というものを曹洞宗的に大きな意味で捉えたなら、そのはたらきを絶やさないよう、生かしきっていくいくことが不殺生だったのです。

「殺さない」のではなく「生かしきる」というわずかなようで大きな解釈の違いが、私の視点を大きく変えました。

仏の命を続ぐ

そして、私は勉強をしていく中で、奈良老師が仰ったことの根拠となった書物と出会います。

道元禅師が戒について説き、現在も曹洞宗の戒の根拠となっている『教授戒文』という書物には、こうあります。

生命を殺さざれば、仏種増長す。仏の命を続ぐべし。生命を殺すことなかれ

(春秋社『道元禅師禅師全集』6巻・215頁)

生命を殺さなければ、仏としての心がより増していく。
仏の命を続ぎなさい。
生命を殺してはならない。

意味としてはこのようなことです。

ここで重要なワードは「仏の命を続ぐ」という部分です。

仏の命というのは、前回ご紹介したような、動植物・無機物・加工物などありとあらゆる存在を含む非常に広い意味での命です。

奈良老師が「はたらき」とおっしゃったのはこの仏の命のことです。

そして「続ぐ」は絶やさずにつないでいくことと言って良いでしょう。

そう考えると、この一文は「不殺生とは仏の命を絶やさずつないでいくことである」という意味で解釈することができます。

これが奈良老師の「不殺生とははたらきを生かしきるということ」という言葉の根底にある、曹洞宗の考え方だったのです。

では、「仏の命を絶やさずつなぐ」「はたらきを生かしきる」という不殺生の在り方とはいったいどのようなものなのでしょうか?

次回は、不殺生を実践していく方法についてお話します。

まとめ

○一般的な不殺生のイメージ→生きているものを殺してはいけない

○曹洞宗の不殺生→「はたらき」として存在するあらゆる命を「生かしきる」

Next→生かしきるとはどういことか?

 

 

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