お葬式は誰を救う?

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前回はお彼岸にちなんで、回向文などに出てくる「報地」はどこにあるのか、ということについてお話ししました。

今回はこれに関連する内容で、お葬式についてのお話です。

私の最近の体験をもとに、お葬式は誰を救うものなのかということについて、考えてみたいと思います。

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とある体験

まだ住職にはなっていない私ですが、週末は実家のお寺に帰って法事のお手伝いをしています。

基本的にはお葬式が済み、四十九日以降の御供養をお勤めすることが多いのですが、時々「授戒」をお勤めすることがあります。

この授戒とは在家檀信徒の方が仏教徒として行う授戒のことではありません。

なんらかの事情があって、お葬式やお戒名の授与を行えなかった故人への授戒です。

本当に事情は様々で、そこに触れることはできませんが、これは先日お勤めした授戒のお話です。

その方にはお寺としても非常にお世話になったこともあり、師匠と私と伯父、3名の僧侶で授戒をすることになりました。

法要にはご遺族のみの参列で、本堂にて授戒・お位牌の開眼などをお勤めいたします。

お焼香には幼いお孫さんも出られて、それを見守るお施主さんは非常に嬉しそうでした。

そして一通りのお勤めが終わり、師匠が「葬儀とは?供養とは?」ということについてお話しをすると、堰を切ったようにお施主さんをはじめご遺族が涙をこぼしはじめました。

後から師匠に聞いたところでは、亡くなるのも急だったうえ、お葬式もきちんとできなかったことに対して、ご遺族はひどく心を痛めていたそうです。

そして授戒の後、ご遺族は心にのしかかっていた重しが取れたように、泣いてお礼をいいながら、お寺を後にされました。

誰が、誰を救うのか

一般にお葬式、正確には通夜と葬儀は、故人を仏様にする儀式と認識されます。

曹洞宗に限った話で言えば、故人は葬儀の中で髪を剃り、戒を受けて仏道修行に入るという言い方をします。

ただ、少なくとも私には、葬儀中に故人様がお坊さんになって修行をしている姿や、仏像のような仏様になった姿は見えていません。

そのため、誤解を恐れずに言えば、儀式をお勤めしただけでは故人が救われたかどうかは私にはわからないのです

しかし、私にも見えるものがあります。

それはご遺族の表情です。

別れの辛さや不条理さへの怒り、あるいは生前の関係への後悔など、様々な思いがあるでしょう。

しかしそれでも、お葬式という儀式を通してお見送りをしたという一つの安心が、表情や言葉の端々に表れることがあります。

当然、すぐに納得ができた、諦めがついたという方はほとんどいらっしゃいません。

ただ、「お見送り」をしたという事実に、最後に故人に尽くすことができたという安心があるのです。

私は、今回の授戒によって救われたのは、お葬式が出来なかったことに心を痛めていたご遺族だったように見えました。

そして、ご遺族が救われ、お一人お一人の心の中で仏様となった時、初めて故人が救われるのだと、思うようになったのです。

誰がために誰がためもなく

時々、葬儀とは遺族のためか故人のためか、という議論を見かけることがあります。

私の師匠は葬儀の際、ご遺族に「供養とは存亡そんもう共に救われるものです」というお話をします。

それは、生き死にに関係なく、一つの儀式を通してそこに携わった全ての人がそれぞれの形で救われるものであるということです。

ご遺族にはご遺族の、ご友人ならご友人の、それぞれの立場から故人との関係を結び直して、自分を導いてくれる仏様にする儀式

それが葬儀なのだと私は捉えています。

そして、忘れてはならないのが、私たち僧侶も葬儀をお勤めすることで救われているということです。

故人を仏様として受け止めていくことはもちろん、僧侶という道を選び、それを必要とされることで、仏道を歩むことができます。

故人もご遺族も参列者も、僧侶も葬儀社の方も、全ての人が何かしらの形で救われる儀式として、葬儀は存在しているのではないか、そんな風に感じています。

お葬式のこれから

コロナ禍にあって、お葬式は大幅な縮小や家族葬、あるいは直接火葬場というケースが増えてきました。

また、様々な企業の参入によって、お葬式にも手軽さ、目新しさを求める空気が流れているようにも感じます。

個人的には、変化はあって然るべきだし、色々な形があっていいと思います。

ただ、お釈迦様をお送りした時に習ってお勤めされる伝統的なお葬式には、どのような意味があったのか、失ってはいけない部分はどこか、そこは抑えておかなれければならないのではないでしょうか。

故人を救うためにまずは遺族を救えるものになるように努め、それによって私たち僧侶や葬儀社さんも救われる、存亡共に救われる葬儀がお勤めできるように精進したいと近頃切に思います。

 

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